中医学による予防の概念
今まで説明した通り、中医学において予防は治療よりも重要な役割を持っていると考えられています。症状が出てから対処するよりも、症状を未然に防いで健康的な生活を送る方が本来の在り方だと認識しているのです。
このような考え方はこのカリキュラムで説明した漢方・薬膳に加え呼吸法や鍼灸、按摩術などの治療法だけに関わらず、中国武術の功夫(カンフー:鍛錬、訓練)にも応用され、古代中国から現代まで発展してきました。
予防はこのような手段を用いて『体質の強化』『健康の維持』『寿命の延長』『疾病の防止』などの効果を体に与えます。
漢方の基礎となっている『黄帝内経・素問』の第一章『上古天真論(じょうこてんしんろん)』に記載されている黄帝の最初の質問は、「100歳を超えても元気でいられる秘訣」についてです。
続く第二章『四気調神大論(しきちょうしんたいろん)』でも病気にならないうちに予防する『治未病(ちみびょう)』の理念について語られています。つまり中医学とは、最も早く予防学に注目した医学だと言えます。
中医学において予防は2種類の意味を持っており、「症状が出る前に防ぐこと」と「発病や治療後の二次発生を防ぐこと」に分かれます。
疾病の予防
これから発病する前の予防について説明していきます。簡単に説明しますと、病気は体の中の正気が外から来た邪気に負けてしまって起こった結果だと考えられています。なのでこの場合、邪気にも負けない生気を作り上げることが『予防』となります。
自然に順応する
こちらは養生の基本でもある生活を送る事になります。朝は起きて夜は寝る、衣食住を揃えてバランスの良い食事をとる、季節に合わせた生活を送るなど規則正しい生活を送る事で自然と予防を行う事ができます。
精神を保養する
ネガティブな思考や情緒の不安定は臓器にも悪影響を与えます。その隙に邪気が入り込んで発病してしまう可能性もあるので、健やかなる精神を鍛える事も予防の1つになります。
飲食を調節する
これは今まで説明してきた漢方・薬膳の知識を用いて体に良い食事を作り、なおかつ適度な量を適切な時間に食べる事で健康へと向かいます。
食べ合わせの禁忌やその人に合った食事など考える事は多々ありますが、逆に言うとその人だけのオーダーメイドが出来る予防法にもなります。
体力を向上させる
こちらはシンプルに、体力をつけて予防する方法です。いくら健康に気を使った食生活を送っていたとしても、基本となる体が虚弱では話になりません。
体力、筋力が上がればその分内臓の方も活動効率が上がり、体質を改善してくれます。特殊な呼吸法で気を取り入れ、ゆっくりとした動きで筋持久力を高めつつ体の隅々まで気を送る太極拳も伝統的な方法の1つと考えられています。
補腎益精を中心とする
五臓の働きで説明した通り、腎は全身の陰陽を扱っており体の成長を担っています。つまり腎の気を増やすことは全身に使われるエネルギーを蓄える事と同時に、寿命を延ばすことにも繋がってきます。
疾病の予防
体の調子に関わらず発病の可能性がある伝染病などは上記の内容だけでなく、予防接種や鍼灸など外部から行う予防も場合によっては必要となります。
疾病に対する対応
疾病が起こった場合には高をくくらず、早期に診断・治療を終えて悪化を防ぐことが重要となります。ここで失敗すると病気はズルズルと続き、最悪命の危機に面する可能性も出てきます。
疾病の理解と対応
発病した場合、早期に診断することが鍵となってきます。邪気が内臓へと侵入する前に体表で払ってしまうことが望ましいです。なので常備薬やかかりつけの病院などを用意しておく必要があります。
関連臓腑の把握と対応
季節の風邪や体の特徴など、進行過程で浸食されやすい臓腑を把握しておきましょう。胃腸が弱くてそこに邪気が入り込んだにも拘らず、心臓に効く薬を飲んでも意味がありません。場合に合った対処を素早く行う事が大事です。
Lesson11確認問題
学習した部分の知識をしっかり定着させましょう!
ここからLesson11の確認問題を行なうことができます。